A. 連れ去ったことのみであれば、相手方は連れ去るだけの何らかの理由を弁護士の先生と一緒に考えているはずですから、「緊急性」を訴えることは難しくなります。

差し迫った危険を主張する最も強い証拠となるのは、相手方による最近の「日常的な身体的・性的虐待の記録」です。暴行の様子のビデオがあればいいのですが、あなたが撮影したものであれば「身体的虐待を放置していたネグレクト」に該当しますので、第三者撮影あるいは定点カメラによるもの、あるいはあなたが虐待を止めていることまで分かる音声などが有効です。連れ去り前に取ってあった怪我の写真と医師の診断書、児童相談所での相談記録(子ども本人とも相談してあれば強力ですが、相手方もこの手はよく使います)なども使えます。

逆に、相手方はあなたがいないところでずっと子どもと一緒にいられるわけですから、何か怪我をしたときにカメラの日付を連れ去り前に設定して写真を撮っておき、「これはあなたが小さいときに叩かれて/押されて怪我したときの写真だよ」と繰り返し言い聞かせ、写真がある程度たまり子どもも疑似記憶を他者に語れるようになったら、医師のところにその写真を持ち込んで「虐待」を認定してもらって診断書を書いてもらうという手段を使うこともありえます(裁判官は真実の虐待と虚偽の虐待を自ら見分ける能力は有していないと考えておかなければなりません)。

ネグレクトはなかなか証明しづらい虐待様態です。子どもが病気であるのに病院に連れて行かなかったという場合、例えあなたが出張中であってもあなたのネグレクトもあったと言われる可能性もあり、単に体重が少ない等では発達的な遅れと見なされます。

心理的虐待は更に難しくなります。子どもを傷つける暴言等は通常あなたのいないところで行われていますから録音・録画は難しく、例えば虐待の記録のための盗聴器を設置していたとしたら相手方からは「自分の行動を監視しようとするモラハラがあった」と言われます。また子ども本人が相手方のところにいるのですから、調査官等が虐待の話を聞こうとしても相手方への忠誠葛藤や恐怖心から正直に証言することはまずあり得ません。

虐待の次に考えられるのは、相手方の性格等監護能力です。自殺未遂したことがある、子どもの前でリストカットを繰り返していた、暴力事件で逮捕歴がある、夫婦喧嘩の際の怒鳴り声に隣近所から苦情が来ていた、連れ去り直前に精神科の入院歴がある、アルコール依存症の既往がある、といったことなどです。相手方とも親交のある方の書いた陳述書等があれば真実性が増します。

相手方の勤務様態(夜勤がメインで子どもを監護する人がいない)や、監護補助者の問題(実際には監護できなかったり監護補助者による虐待)、経済的な問題(個人的な借金がかさんで催促状が頻繁に来ていた等)なども一定の限度を超えるものであれば緊急的な問題と考えられます。