2016.12.26
持論時論/臨床心理士/石垣秀之/(44歳、宮城県亘理町)
父母の離婚や別居後も親子の交流が継続されることを目指す、通称「親子断絶防止法案」の国会提出に向け、超党派の国会議員連盟が準備を進めている。同法案は、児童の最善の利益実現のために、離婚後も両親が親としての責務を果たすよう面会交流と養育費の支払いを原則として求めている。
「児童の権利に関する条約」第9条3項は「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方または双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係および直接の接触を維持する権利を尊重する」と定めている。日本以外の主要先進国はこれを受けて、離婚後も基本的に共同親権としている。
日本でも1994年に条約が発効しているが、それから20年以上たっても単独親権を継続。2010年には、国連児童の権利委員会から、前述の児童の権利を確実に守るよう勧告を受けている。
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先進諸国では、女性に対するドメステイックバイオレンス(DV)や児童虐待が議論される中でも、離婚後の面会交流が子の福祉につながるのかどうかについて、心理学や社会学の研究者たちが調査研究を行ってきた。それらが一様に認めるのは「離婚後であっても親子が継続的に面会交流をすることが子の福祉を向上させる」ということである。先進諸国はこれを受けて年間100日の面会交流を基準とするよう、そして共同親権制を採るよう法改正を進めてきた。
私は、DV被害によってトラウマ(心的外傷)症状を呈している女性への心理治療を行っている。DV被害の女性のためにも、親子断絶防止法は必要である。DV夫に家を追い出され、乳児の顔を1年以上見せてもらえないケースがあった。連れ去りであれ、追い出しであれ、愛する子に会えないことがどれほどつらいかは、誰でも容易に理解できるだろう。
親子断絶防止法は、子どもの福祉と権利を守るための原則法であり理念法である。子どもへの虐待を行う親への面会交流を義務付けるものではない。また離婚後に親としての義務を放棄する無責任な大人への社会的圧力にもなる。
日本の家庭裁判所は、諸外国の研究実績を顧みず、いまだに面会交流は月に1~2回、2時間程度という審判を下し続けている。家裁の裁判官は、児童の最善の利益を検討してはいない。親子断絶防止法は児童の利益を実現するための審判・決定を得るための規範となる。司法の怠慢を許さないためにも必要である。
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11月1日の本紙朝刊の社説は、法律よりも支援体制拡充が先決と主張している。だが私は、女性や障害者の権利と同様、条約批准と法成立によって理念が認知され、支援体制が整備されると考える。
学校は、離婚家庭の児童に対して、これまで何も支援できずにいた。医療・福祉においても、臨床心理士の場合も、離婚家庭の子どもを支援する体制は極めて不十分だ。組織的で強力な支援を開始するためにも、一日も早い法成立が望まれる。 (投稿)