A. 子の引き渡しについて実力行使ができない場合(通常はすべきではありませんし、調停等が始まってから行うと調停・審判の結果に悪影響を及ぼします)、まずは調停を申し立てることになりますが、調停は通常数ヶ月の時間を要し、そこで決まらなければ審判に移行し、1年以上会えなくなる可能性があります。そうなるとその期間に子どもが新しい環境に適応し、もとの環境に戻すことがかえって子の福祉に反するという判断を下されることが多くあります。相手方の弁護士はそのことを知っていますから、通常引き延ばし作戦を取ってきます。相手方の弁護士の依頼人はあくまでも相手方であり子どもではありませんから、相手方の利益は子どもの福祉に優先する(子どもは金を払ってくれません)わけです。

こちらとしては、第一に子どもの福祉を実現するために、第二に継続性の原理という主張を封じるためにも一刻も早く子どもを戻す必要が生じます。その場合、「子どもに差し迫った危険がある」等、現状を放置し調停・審判による紛争の解決を待っていたのでは子の福祉を著しくそこなう可能性がある場合には,審判前の保全処分の申立てをすることが可能です。逆にこの申立てをしないということは、相手方から「特に差し迫った危険があるとは認識していなかったのでは?」というあらぬ疑いを主張される可能性すら生じますから、子の引き渡し等と合わせてセットで申し立てることが一般的な戦略と言えます。