面会交流や監護者指定等の調停・審判では、相手方が子どもを医師に診察してもらい、診断書の記載を求めそれを面会交流拒否の証拠として提出することが多く見られます。

調停委員や裁判官は、医師がダメというのを医学的な根拠もなく翻すことはできませんから、診断書の妥当性・信頼性について否定するために、本当は他の医師が診察し異なる診断書を提出することが必要ですが、相手方が子どもを監護している以上、こちらに一時的に子どもを引き渡し医師に診察させるような取り決めをすることはほぼ不可能です(それができるくらいなら調停・審判になっていないはずです)からそうではない方法でやるしかありません。

そうなると、子どもを見ない状態で医師に何らかの意見書を書いてもらうか、あるいは医師以外の専門家による意見書を提出する他ありません(裁判所はこの不平等・不公平な問題について是正しようとは考えていません)。

医師法第19条2には、診察治療を求められた場合拒んではならないこと、診断書を求められた場合には正当な事由がなければ拒んではならないことが記載されていますから、もし相手方が子どもを診察させた医師が「これは片親疎外の可能性が高いな」と考えていても、診察を求められた以上拒むこともできず、相手方と子どもに症状を聞く義務がありますからその一方的な(あるいは虚偽の)訴えに基づいて診断せざるを得ません。

一方、同法第20条では、医師が自ら診察しないで治療をしたり診断書を書くことは禁じられていますから、あなたが、子の状況について医師に相談しても実際に子どもを診察できない以上診断書を書いてもらうことはできません。

面会交流を求める側の弁護士の先生は、この問題を打破する必要があります。最も有効なのはカルテ開示を請求することです。現在、大きな病院では電子カルテ化が進んでいますから、カルテの改ざんは難しくなっています(システムの状況や、改ざん知識を有する場合は不可能ではないはずですが)。カルテに記載された内容が、こちらの持つ証拠と齟齬がある場合や、たった一度の診察による診断の場合、診断の根拠となった症状がまさに裁判で争われている部分である場合には、診断書の有効性はかなり低くなると言えます。
加えて、仮に相手方が子どもの監護に当たって現在裁判中である旨を伝えているのであれば、医師の持つ倫理(WMA 医の国際倫理綱領)にも見られるように、「医師は、その専門職としての判断を行うにあたり、その判断は個人的利益や、不当な差別によって左右されてはならない。」との原則に反していると言えます。日本医師会から出されている医の倫理綱領では、5に「医師は医療の公共性を重んじ、医療を通じて社会の発展に尽くすとともに、法規範の遵守および法秩序の形成に努める。」とありますから、児童の権利条約を遵守する義務があり、未成年者略取・誘拐の幇助を行うことは法秩序の形成に反し、倫理綱領に反する行為と言えます。児童の最善の利益よりも相手方の個人的利益を優先する、あるいはあなたを差別するような意図が明確な場合で、法規範・法秩序を乱すような診断書である場合は、医道審議会に諮ることも検討しなければなりません。

このようなカルテに記載された診察時の聴取記録の問題や医師の倫理に関しては弁護士の先生が主に主張すべき点ですが、カルテ内容から子どもの心理状態や相手方の心理状態について推測することに関しては、臨床心理士をメインとする心理学の専門家の意見書が必要になります。相手方が主張している子どもの症状が年齢発達的にありえないものであったり、特に精神科における診断のように医師の主観によって診断項目に該当するか否かが別れる場合に、その年齢や発達からそれが妥当かどうかを検討したり、極端な場合、相手方が他者に負わせる作為症(代理ミュンヒハウゼン症候群)と診断されるべき状態にある可能性もありますから、相手方の心理状態について他の書面と合わせて検討できる能力が必要です(臨床心理士も本来であれば子どもと直接面接してその状態を確認すべきですが、それが不可能なため書面から検討せざるを得ません)。

また、いわゆる片親疎外について医師が知識を有していない場合、子どもが別居親を不合理に拒絶している状態を見て、「虐待によるトラウマ反応」と誤診しかねませんから、この点について、その心理的な機序を説明することができなければ裁判官にそのままを採用されてしまうことも十分考えられます。

医師・弁護士・臨床心理士の方で、この問題に関わる方は、双方の主張と証拠からそれぞれの専門的知識と経験を活用して、何が起こっているのか、どうすれば子の福祉を実現できるのかを真摯に検討していただいて、争い会う夫婦間であっても子どもにとって最大の利益が享受できるようにご配慮いただければと思います。